小論文対策：「異文化理解」というお題が出たら

解答例文A

　今日私たちが、異文化と異文化出身の人々に触れる機会はますます増えてきている。日本が、古くは中国から、そして明治以降は欧米から先進文化を取り入れて発展してきたように、異文化との接触は本来よいことである。しかし、現代では、欧米社会からイスラム教国が敵視されているように、異文化間での摩擦や誤解が目立つ。異文化間での理解を深め、お互いのコミュニケーションを円滑に進めるためには、他者の文化に対する尊敬の気持ちと、相手のことをわかろうとする真剣な努力が必要であると私は考える。

　私は、家族旅行でタイに行ったことがあり、タイでは仏教が生活の中心にあって、僧侶は社会的に高い尊敬を受けていた。バンコクの有名な寺院を訪れる前に読んだガイドブックには、お寺では短パンやティーシャツなど肌の露出が多いものを着ていくべきではないと書いてあった。外国人がそのような格好で神聖な寺院に行けば、タイの人々は仏教が冒涜されたと考え、感情が傷つけられるというのだった。私たち家族は、暑い国での観光とはいえタイの人たちが重んじている場所に行くのだから、それにふさわしい格好をしようと気をつけた。そしてそのことによって、タイ文化に対しての私たちの尊重の気持ちを表そうとしたのである。

　異文化間のコミュニケーションを妨げるものは、自国の文化やそのやり方がすべてだと考え、相手をわかろうとする努力をしない怠慢な態度にある。課題文にもあるように、もともと人間は自分が生まれ育った環境に慣れ親しみ、違ったやりかたを本能的に拒否する傾向がある。しかしそれでは、異文化間の理解やコミュニケーションは進まないだろう。相手のことを知ろうとする真摯な努力や真面目な好奇心があれば、課題文の筆者が言うように、異文化間でのコミュニケーションは可能になると考える。

解答例文Ｂ

　異文化コミュニケーションというと、多くの人は外国語で相手と話をすることだと考えるだろう。特に、現代では、英語が事実上の世界言語になっているので、英会話ができることがすなわち異文化コミュニケーションであると、学校教育の現場でも英語でのコミュニケーション能力が重んじられている。しかし、果たして外国語、特に英語さえできれば異文化コミュニケーションはうまく行くと言うのだろうか。

　課題文では、日本人留学生がアメリカで銃で殺された事件が述べられていた。事件そのものは色々な原因が複雑に絡み合っておきたものだろうし、私はこの日本人留学生に、重大な落ち度があったと非難するつもりはない。しかし、この事件は、私たちが異文化コミュニケーションを、外国語ができるとかできないというレベルで考えてしまい、お互いの文化的背景まで踏み込んで理解したうえで異文化と向き合おうとしない風潮に重要な示唆を与えるものだと考える。

　例えば、今の英語教育では、会話表現が重視されてコミュニケーション能力の向上がうたわれている。しかし、英語の表現をいくらたくさん暗記したところで、その言語を話している社会や人々といった文化全般に対する深い理解がなければ、異文化どうしの接触は不幸なものに終わってしまう。もし、この日本人留学生が日本とアメリカの文化的な差異、特に、銃に対する考え方やその背景が大いに違っているということを知っていれば、悲劇は防げていたかもしれないのである。

　異文化間の誤解を防ぎ、異文化コミュニケーションが達成されるためには、私たちは、相手との文化的差異や相手文化を深く知らなければならない。そのためには、学校教育などの現場で、表面的な外国語学習を進めるのではなく、その文化を生み出した背景や歴史まで深く学習するべきである。またそのような目標が達成される教育法や、教材開発を進めることが重要であると考える。